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黒い瞳34

解説と目次を御確認の上、おすすみ下さいませ。



〜昇華〜


「セズはいい男だろう?」
クーが茶目っ気を含ませて、キョーコに笑いかける。
「はい。」
素直に頷いたキョーコに久遠が固まる。
「あいつがこんなに売れる前から知ってるからなぁ。」
クーはトング片手に、肉塊とにらめっこしつつ、話し始める。
「ジュリ、、セズに最初に会ったの何年前だっけ?」
「それを私に言わせるの?」
ジュリが苦笑する。
「いいか、年は。」
クーが網の上の肉塊をひっくり返す。
「あいつ、荒れててなぁ。撮影に来た時、酒臭いは殴られてボコボコだわ、使えなくてな。」

久遠が俯いて、チェアーに腰を落とした。
キョーコはその横に寄り添う。
この話をクーが聞かせるつもりだったのは、明らかで。
少しオレンジがかった夕方の日差しに、四人の影が伸びる。

「キョーコは、知らないんだよな?」
クーが久遠に話し掛ける。
久遠は頷いた。
セズの亡くなった恋人の話。腕のタトゥーへの誓い。

ジュリがクーの手を抱きしめる。
「荒れてる理由を知りたくてな、、。」
キョーコはクーを見つめた。久遠が荒れていたことを、キョーコは久遠から聞いている。クーもジュリもそれをただ傍観していたわけでは、、ないのだろう。
「構い倒したなぁ。あいつは懐くんだ。」
クーが笑う。
もう三十代の半ばの俳優に対して、懐くという言葉が相応しいとは思えないけれど、セズには似合う気が久遠にもキョーコにも感じられた。
「日本よりは広いけど、この業界も狭いんだよ。」
「セズが荒れた理由でもあるし、こうなれた理由でもあるな。」
キョーコは首を傾げる。
「筋道が通らない世界があるんだよ。」
久遠がキョーコにそう言った。
皆何かを抱え、それを乗り越えて生きていくのだと、キョーコはそう思った。
久遠は久遠の過去を、セズはセズの過去を。

「キョーコには可能性がある、ライリーが惚れ込んだんだ、華麗なるデビューだよ。が、娘としてはね、心配だよ。」
クーが微笑んだ。
「ウチに今まで来なかったしね。」
「すみません。」
「ほら、それ!」
ジュリが笑う。
「久遠もそう。」

「キョーコの為に、私たちを利用するぐらいにならなきゃ、だめなのよ?」
ジュリエナの微笑みはまさに女神そのもので。
「そうだ。利用するということは、悪い事じゃないってこと、二人には改めてほしいな。」
「セズから、二人の事を聞かされて、俺はかなしかったんだ。」
クーが久遠のオデコに指を伸ばしてふざける。

「キョーコ。」
クーがキョーコを手招いた。
そしてこっそり耳打ちする。
「ありがとう。」

「え?」

「理由は色々あるが、、墓場まで持っていくよ。」
クーとジュリが顔を見合わせて微笑む。
キョーコはそれにつられた。それでいいような気がして。
クーとジュリが供に歩んできたもの、そしてこれから。

「さっ!食うぞ!イイ塩梅に焼けてるからな〜」

久遠には珍しく、しっかりと食べる姿は、昔見た、マウイオムライスの時に少し、ほんの少し、似ていた。

前に、前に進んでいこう。
キョーコはそんな風に思って、噛みごたえのある肉を頬張った。



*****
次回で最終回になるかな?
ちょっとまだ書けてないのであと二回とかあるかもですが。



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