野茨の縛10

前話は解説と目次を参照下さい


**

朝、ナツの足は大学へ向かわなかった。
泣き腫らした顔は案外スッキリしていたから、両親も気づかなかった。
大学の最寄り駅を過ぎて、ナツをのせた電車が都心へ向かう。

ふらふらと歩く。
無目的に歩いていたはずが、気づけば例の博物館の前。
あの時、突然に現れた蓮に、ナツはそのまま攫われたのだった。
攫われたというより、ドキドキする遊び、だった。あの時点では。
引く手数多であろう男が、犯罪まがいの事をするのは、ナツと同じような刺激に餓えているのだと思っていた。
その時のことをネタに誘い出されて、身体を重ねて、快楽を教え込まれて。
こんなものは、恋じゃない。

博物館の展示はもう変わっていた。

「あれ、なっちゃん?」
その声に顔をあげれば、スーツ姿の貴島だった。
「こんにちは。」
慌てて笑顔になる。
「ホントだったんだ。」
貴島の呟き。
「なんですか?」
「いや、敦賀くんがさ、君に会ったのは博物館だっていってたなって。」
ぎくん。
そんな話を蓮はしたのかと。

「仏像とか、ちょっと流行ったけどさ。」
貴島がちらりと展示のポスターを見る。
「なっちゃんはこういうの見る人なんだ?」
「いえ、仏像はそんなに。」
ナツは苦笑する。
「それより、貴島さん、面接とかじゃないんですか?」
「あ、もう終わった。ふらふら帰るとこ。もう内定みたいなもんだしね。」
「おめでとうございます。」
「なんつーかね。」
照れくさそうに貴島が笑う。
「そうだ、なっちゃん、時間があるなら、俺につきあってよ。」


紙袋をぶら下げて、貴島とナツが大学に着いたのは少し陽が傾きかけた頃だった。
「教授、ボランティアに関しては甘いからさ、大丈夫。」
楽しそうに貴島が選んだのは、子供達と遊ぶためのおもちゃやその材料。
サークルには部室がないのに、この荷物をどうするのかと尋ねたナツに貴島はそう答えた。
・・・教授室のあのカラフルな一角は、その為か。
「貴島さん、サークル楽しいですか?」
「うん、楽しいね。俺、子供と遊ぶの好きなんだ。」
気負う事なく答えて、知恵の輪やら、ちょっと懐かしいようなオモチャをいじっていた。
「奏江ちゃんにも、就活メドが立ったら戻るねっていったしね。」
ゼミ室の隣が教授室になっているから、2人はゼミ室に向かっているようなものだ。
ナツは足が重いような、貴島がいるから気楽なような、変な心持ちだった。


タイミングというのは、あるのだろう。

貴島の足も止まったし、ナツは手にした袋をおとしそうになった。
蓮もまた、2人の姿に無表情になった。

蓮の手がその肩に置かれているのが明らかな、、
柔らかいサーモンピンクのワンピースの小柄な女性が、その大きな瞳で蓮を見上げている。

ゼミ室のある建物の手前の自動販売機の前。
だから、そこに蓮がいることも不思議でもなければ、並んでいる女性がいたところで不思議はない。
けれど、、手、が、肩にあった。
蓮が優しく微笑んでいた。

ナツは袋を持ち直し、歩き出す。
貴島もそれにつられて一歩をふみだしていた。
「こんにちは。」
軽い会釈でナツはそこを通り過ぎる。
貴島が軽く手を上げるのを気配で確認して、通りすぎる。


「おい、またか?」
廊下で社が貴島の荷物を認めて怪訝な顔になった。
「です!」
貴島は悪びれない。
「なっちゃんも、コイツは止めてくれよ。教授室がお遊戯会場になっちゃうからさ。、、大丈夫?」
「え、、あ、すみません。大丈夫です。」
大丈夫の内容がさっきの風景のことかと勘違いしそうになって、ナツは慌てた。
「いやだな、謝る事じゃないって、だいたいこの時期は体調崩しやすいんだしさ。」
ぺこりとナツは社に頭を下げる。
「来客中だからさ、それゼミ室な。」
社が貴島に言い放つ。

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