黒い瞳 33

「解説と目次」を確認してからおすすみ下さい。



〜星霜〜


・・京都であった頃の写真だ。
キラキラとした笑顔。それが、河原で出逢った『妖精』。
でも、アルバムの流れでは、笑顔がどんどんと鈍くなり、枚数が減っていく。

キョーコは隣に座るジュリエナの様子を少し伺う。
・・このアルバムを、久遠は見られたくなかったんじゃ、ないだろうか。
「いろいろあったんだ。」
久遠の口が重くなる、昔の話。
キョーコは無理に聞き出したいと思わなかった。
久遠の事を知りたい、それとは何か次元が違うような思いがあった。
話したいなら、聞きたいと思う。
だから、こうやって写真を見てはいけなかったんじゃないかと。

「この頃よね。「京都」で「キョーコちゃん」に会ったんでしょう?」

ジュリエナの綺麗な、久遠に良く似た美しい貌がキョーコを覗き込む。
「ふふ、私は仲間はずれだったのよ。」
キョーコは写真よりも、ジュリエナを見る。
「クーが,久遠を日本に連れて行ったら、すっかり気に入っちゃって。」
「聞いてくれる?」
少女のように、唇を尖らせて愚痴を言い始めた彼女に、キョーコは少し頬をあからめた。
・・久遠にとっても特別な出逢いだった。
それを知って、踊るキョーコの心。

「ロシア語はね、すごく良く話してくれたの。」
ジュリエナはニコニコと笑顔になる。
つまり、夫妻で息子をとりあうようなところがあった訳で。
「私は少ししか日本語がわからないから、もう悔しくて。」
「クーは大真面目に『ルーツ』は尊重すべきだって言うし。確かにね、そうなんだけど、。ほんとに日本語は難しいのよ。」
『日本』に関しては仲間はずれみたいで、嫌なの。

「あ・。」
発言を誤ったというような、ジュリエナの表情。
口に手をかざし、無表情になるそれは、久遠そっくりだった。

「キョーコが気に入らないとか、そういうことじゃないのよ!」
「は、はい。」
ジュリエナの勢いにキョーコはいささかたじろいだ。
『先生の奥様』と想像すれば、その勢いはあってしかるべきでもあり・・。
「ああ、もう私、私が嫌いだわ!」
「ごめんなさい、キョーコ。単純に、「日本語」が難しくて、私がわからないから厭なだけなの!!」
「ここでは、日本語禁止ですね。」
キョーコは微笑んでみせた。
そして庭の久遠とクーをちらりと見る。
「そうね!2人に言い聞かせなくちゃ!」
ジュリエナがすっくと立ち上がって、庭に出て行く。
キョーコはそれについてゆく。アルバムは途中でとじた。
・・いつか、一緒に、穏やかに振り返れたら、いい。
ふと、一緒にいる将来を当然のように想像した自分に気づいた。


「キョーコ?」
久遠が、どうしたの?とでもいう顔で、キョーコを覗き込んだ。
「久遠は、お母さん似なんですね。」
さっきのジュリエナと被る仕草。
くすっと久遠はわらう。
「それは、褒められてるってとっていいんだよね?」
「さあ?」
キョーコはとぼけた。
両親と会うのは、それなりに緊張するんだと言っていた久遠だった。
・・一緒にいれば、大丈夫。


「そういえば、黒い瞳、久遠は歌える?」
キョーコは唐突に切り出した。
「あ、ジュリが歌った?」
久遠はそう答えた。キョーコは小さく頷く。
「一応ね、歌えるよ。」
ちょっとはにかむような表情。
「聴きたいです。」
「ちょ、、、それはちょっと。」
久遠が口元に手をかざして、キョーコから顔をそむける。
・・あ、耳が赤い。


「これは、男の人の恋のうた。」
にこりと微笑んだジュリエナの声。

「なりふり構わずに恋に堕ちた男のね。」
セズがくるくると踊りながら、ぴたっと止まって射竦めて「娘」に言う。
「お前が俺のすべて。」


「いつか、聴かせて。」
キョーコは微笑んだ。
驚いたように久遠がキョーコをみる。

「いつか」

それは続いていく「未来」を示す言葉。





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