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 暗い部屋で放心したように敦賀は暗転した画面をみていた。
先刻まで、心を蕩かすような微笑みが映っていたそれに、自分の姿がぼんやり浮かんでいる。

ー女の子は早いよ〜大人になるのー

いつかの社の声が頭に響いている。
早いとかそういうことじゃないだろう。
まだ高校生だというのに何を見ているんだという自分の声と、あれは大人の女だとささやく自分と。
あの笑顔を前に理性なんか働く訳が無い。
なんて、扇情的な笑顔なのか。

解説も無いただのCMなのに、あのルージュが男の心を託して贈られたモノで、彼女がそれに喜びをもって応えたのだと解ってしまう。「京子」の才能。
あの子は自分自身の恋には否定的でもそういう機微をちゃんと解っているのだ。いや、恋を否定ではなく、誰かに恋しているのか。だからあんな笑顔ができてしまうんだ。
大友秀一という監督の作品は以前から気になって何本か見ていたが、彼が恋愛を扱うときはもっとシニカルだったように記憶していた。だから、「京子」からこんなストーリーをどうやって引き出したんだろうと、意外に思う気持ちもあった。監督なのか、彼女の恋なのか。

夜バージョンといわれたこのCMは、CMにも関わらず、どの時間帯で見れるのかと問い合わせが殺到、TV局は次のクールのドラマにしないかと華粧に提案をしてきたときいている。
ちょうどonAirされていたBOXRの「ナツ」と同一人物で、DarkMoonの「美緒」でと、露出が少ないのに印象が全く変わる「京子」の素顔を求めてLME周辺もうるさく騒がれるようになった。華粧はそこを読んで彼女の姿を消させてしまった。住んでいる場所も何も謎に包まれて、根も葉もない噂があれこれと胡散臭く騒がれ、真実も嘘もどれもごちゃまぜのまま放置された。
ちゃんとしたインタビュー記事だけが、唯一の情報源となるように宣伝部は巧妙に仕組んだのだ。

事務所の人間ですら、彼女の居場所を知らない。
何しろ同じラブミー部の琴南も一緒に消えている。
ドラマの撮影で一緒になった貴島に「キョーコちゃんとメール通じないんだけど?」といわれて、敦賀は苦笑した。
キョーコの携帯はいまや佐野マネージャーの検閲下にある。
ラブミー部の前ですれ違った日の夜、社が真っ青な顔になって佐野からの「通告」をうけた。
プライベートの携帯は違う番号に替えたこと。その番号は限られた人間しか知り得ない。その番号を親しくしてもらっている先輩であっても、今この時期に教える必要はないと佐野が指導しているのだと。
「「京子」さんの意思は今は無視させてもらってます。だから、彼女が恩知らずだとかそういう風には思わないでいただきたいんです。あなたが彼女の才能を慈しむ気があるなら、この騒動が落ち着くまで待っていただきたいんです。」
社のどんな馬の骨も排除される、という所以を思い知らされる。

トラジックマーカーを機に少し余裕のあるスケジュールにしたのが、今は悔やまれる。
余計なことばかり、考える時間ばかりが増える。
あの艶然とした微笑みが頭から離れない。
あれは、誰に向けた笑顔?
俺に向けてくれる表情とは、違うんだね。




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