name 4

 上品なレストラン、食事の風景で楽しそうな笑顔を見せる女性。
彼女が席を立ち、画面はクラシックな化粧室に切り替わり、彼女がルージュを引き鏡に向かって艶然と微笑んだ。
〜魔法のルージュ〜

「アンタ、、、やっぱり怖いわ。」
「ええっ、怖いって、、CM失敗てこと???」
社長邸の別棟におちついた3人は、ミニシアターのような試写室でそれを見ていた。
「違うわよ。アンタだって解っててもドキドキしちゃうのよっ」
「うそ〜ん!!」
キョーコが顔を真っ赤にしながらも琴南に抱きついている。
佐野はそれを横目でみながら、確かに怖い子だなと思っていた。
このCM、監督は大友秀一という。芸術祭や海外の映画賞などで名の知れた芸術肌の映画監督だ。彼がCMを撮ったなどというのは駆け出しのころで、いったいどういう経緯でこうなったのか、華粧の担当者から説明されてもピンとこない。
華粧も京子の起用を決めたときに、新人でコケない保険として名の売れた監督に撮らせるとは方針が固まっていた。それでも3パターンそれぞれ異なる監督にするほどのことは考えていなかったのが、何人かに打診したところ、「京子」ならとコンペをするに至ってしまう結果になったのだという。大友は自分のチームの撮影監督にこのコンペについて連絡が届き乗り出してきたのだ。

あの撮影はちょっとすごかったな、と佐野はひとりごちる。
なにしろ、艶然とした微笑を撮る為に丸3日かかっている。
大友がその日程が必要だと前もって言っていてくれたから、予定通りに撮れて良かったともいえるのだが、佐野の心臓にはよろしくない3日間だった。
初日、大友は京子に着替えもメイクもせず、素のままふるまわせた。
「僕はね、君がどんな顔をしてくれるか、楽しみにしてる。」
「設定は頭に入っているかな?
男がプレゼントしてくれたルージュをつけて微笑むんだけどさ。食事が終わった後の化粧直しでそのルージュに換えるわけだよね。それはどうしてだと、君は思う?」
 大友の声は低くて佐野が聞いてもセクシーだ。横でゆっくりとかんで含めるように話をされているキョーコが、ほんのりと頬を赤らめても仕方が無い。
キョーコはフルフルとかぶりをふる。
「正直、なんで最初からそのもらったルージュにしないのかなって、思って。」
 大友が優しい笑顔になって、キョーコの肩をぽんぽんと軽く叩いた。
「やっぱり君はいい子だね。」
キョーコが驚いたように大友の顔を見つめる。
「うん、やっぱり、いい顔だなぁ。」
「京子は恋をしてるよね?」
佐野は一瞬にしてゆでダコになるキョーコを想像したが、実際の彼女はややうつむき加減になって淋しい笑顔をした。
「うん、それでいいよ。ただね、今回撮りたいのは魔法がかかっている京子だから、魔法をかけようか。」
キョーコの顔がキラリと輝いたように見えた。
「うんうん。じゃ、質問。あのルージュの色をどんな色と君は思う?」
「大人な、、、キスぐらいじゃ動揺しないような大人なヒトの色。」
ちょっと俯き加減に淋しそうな告白に、ちょっと驚く。そもそもちゃんとあの色のイメージをキョーコが考えていた事に佐野は感嘆している。
「うん、そうだね。そんな色のルージュを送った男は何を考えてたんだろう?」
ーきみにはしないよ。ー
キョーコの中でちょっと困ったように微笑む顔が浮かぶ。ズキンとキョーコの胸が痛んだ。
きっとあの人は私にこの色のルージュなんて渡さない。
「・・・・大人だよね?」
大友が満足そうにうなずいた。
「ああ、大丈夫。僕はもう君がこの撮影をどう締めくくってくれるか、凄く楽しみになった。」
キョーコが驚いたように顔をあげ、その瞬間何かが変わった。
「だから、途中でルージュを換えたんですね。」
大友がうなずく。
「もう言葉はいいから、動いてみせて?」
にこりと微笑んだ顔はもう普段のキョーコではなかった。





関連記事

web拍手 by FC2

コメントの投稿

管理者にだけ表示を許可する

message
場内整備を勉強しておりますが、不行き届きがあって申し訳ありません。何かのご連絡等は<読者様相談窓口>にコメントをお願いいたします。よろしくお願いいたします。
最新記事
counter
カテゴリ
flyaway news twitter
ブログとHPの更新状況とちょっと呟き フォローはご自由にどうぞ!(フォロー返しはあまりないかも)
Link
上部のサイト様は相互リンクいただいてます。 マナー携帯でご訪問くださいませ。 下部のサイト様は大好きサイト様で、リンクフリーに甘えさせていただいてます!!
検索フォーム