黒い瞳 30

〜俳優〜


「よう。」
セズの挨拶を久遠は笑顔で返す。
「ありがとう、、メッセージ受け取った。」
まだ、ティナと容易に口にはできない。
「そっか、、もう彼女は前を向いて歩いてるから、、子供もいるんだ。」
えっ?その久遠の反応に、セズが苦笑する。
「俺が相手じゃないぞ。似たようなもんだけど。」
「似たような??」
「旦那もね、連中の被害者なんだ。すっかり普通のビジネスマンになっちまったけど。」
「そうなんだ。」
ほっとするような、寂しいような思い。
彼女はとっくに前に進んでいたのか。
探すのが怖くて、眼を背けたまま、ただ、彼女の絶叫に苛まれていた、自分。
罪が軽くなったわけではない。
進んで行くこと、生きていくということ。
過去に囚われたままでは、、何も変わらない。


「私に何を下さるの?」
黒い瞳の女が尋ねる。
「あなたのすべてが、欲しいの。」
「それは、」
「すべて、よ?」
ふふふと笑う顔に魅せられてしまう。


「やっと一緒に飯が食える!」
セズが笑いながら、「ココは旨いんだ」と言った店は雑然としたレストランだった。
受付もなく、空いた席に勝手に座る。
なれたようにメニューを広げ、
「京子は食べられないものあるのか?」
「いいえ。」
「そりゃよかった。」
かけつけたウェイターに勝手に注文していく。
キョーコは、なにかホッとするやら不思議な気持ちだった。
ハリウッドの若手ではダントツの稼ぎ、そんな人がこういうレストランで食事をする。
久遠はそれを気に留めても無いようだった。
・・この人の価値観は、不思議。当たり前のようにハイクラスの場所にも行けば、こういった所を嫌悪するでもない。
・・そういうことに興味がないのは、知ってはいたけど。
・・でも、庶民が戸惑うんだって事、想像できないですよね?
キョーコは苦笑する。

食べる事に興味が無い。
だから、どこで食べようが気にしない。そういう面もあるのだろう。
生活、というものに、ほとんど執着がないから、仕事に差し障りがなければそれでいい、そんな感覚なんだろう。
でも、それは演技にも出る。
浮世離れした雰囲気が、そこかしこに現れるような気がする。
キョーコはそこで思考をぴたりと止めた。

・・いつのまに、そういう見方をしていたんだろう?
すべてを目標にしていた筈だった。
敦賀さんならこんな演技はしない、、それが尺度だった。

「どうした京子?」
グラスを握りしめたまま、それを見つめるキョーコにセズが声をかけた。
「・・ごめんなさい。ちょっと演技のこと思い出してしまって。」
セズはその答えにフッと笑顔を見せる。
「キョーコは面白いよね。」
「面白い?」
「空想をリアルにするんだよ、想像力が豊かなのかな?」
クスっと久遠が笑う。
「豊かすぎるぐらいにね、彼女の想像はいつも予想を越えるんだ。」
「もう、どうせメルヘン脳ですよ。」
口を尖らせたキョーコに、セズが吃驚した顔になる。
「メルヘン脳?ま、面白い言い方だけど、」

キョーコは切実に時間が欲しいと思った。
追いかけているばかりで、見えていたのは後ろ姿だったと、今は思う。
褒められる事ばかり願っていたのとも違う。
無意識に分析をしてしまうほどに、共演者としてみていた。
演技者として、一緒にいることは良い事なのだろうか?
自分にはプラスな経験だけれど、、
そんなことまで、考えてしまっていた、、ということに愕然とした。




******
「恋は盲目」になれないキョーコさん。
なにかにつけて、分析しちゃうようです。
不器用で面倒くさい、お二人なので、うだうだ。



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