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社は呆然と現場をみている。
へたりこみそうな気持ちをおさえて、立っている。
撮影現場はいやというほど見てきたのに、なんてこった。
よく知っているはずの二人なはずなのに、なんてこった。
やべっ、俺、ここで泣く?
泣くな俺、あの二人の現実を思い出してみろ、気持ち一つうまく伝え合えない二人だぞ?
舞台と脚本があれば、ああなっちゃうのか?
て、ことはあの二人に、誰かが脚本つくればすすむのか?
いやいやいやいや。
社は頭を振る。

大友監督が、蓮の斜め後ろから話しかけていた。
蓮の雰囲気はもうすでに、敦賀蓮ではなかったが、話しかけられた内容にうなずいたり、答えたりしているうちに場のオーラが変わってくる。コンタクトレンズをいやがった監督の眼は、この眼光をねらっていたんだろうと、社は確信した。
当たり障りの無さなどみじんもなく、存在を主張する。
微笑みも嘘笑いも、はっきりしすぎるほど胸にぶつかってくる。

「ほぼ2〜3テイクか。凄い集中力だね。」
助監督が、ぼっそりと社に言った。
「リテイクの数が普段の撮影の半分以下。監督が意気込んじゃうわけだよね〜」
いや、蓮はリテイクほぼないんで、逆に多いぐらいなんですけど、と社は内心思う。
「京子も蓮も1テイクでいってもおかしくないグレードなんだよ、それをあの人は上げちゃうから怖いんだ。」
「マジックですか。」
「そう、俺もあの人のチーム長いけど、あんなにマジックが艶やかにかかるの初めてみるよ。」
「だから逆に1テイクはもったいなくなっちゃうんだな。2テイク目にはもっと良くなってるって期待しちゃうからさ。もう、ダメ出しでのテイク数なんかじゃないからね。スタッフも息のんじゃうよ。」

京子には耳元で監督はささやく。
マジックっていうか、暗示にでもかけるような。
京子が知っている京子からどんどん変わっていく。
蓮を見ている眼が変わってくる。口元の動かし方一つ一つ。
挑発するように嗤うかと思えば、あどけない顔で微笑む。

撮影中にきーんと心地よいまでの空気がみなぎる。
監督の気合いもあるだろうが、スタッフが息をつめながらガッチリ自分のベストを尽くそうとする空気。
主演の二人があの迫力で演じている以上、小物やライティングのちょっとしたミスなどが、空気を壊してしまう。それをしたくないし、いいものが作りたくて、必死というのが正しい。

カット!
その声から呪縛が解けるのに少し時間がかかる。
ホッとた吐息と、ざわめき。
「今のシーン、OKですので、次のシーンに移ります。撮影の開始は3時間後でおねがいします。」

「おつかれさま。よかったよ。」
まだ役が抜けきっていないような蓮と、社を見た瞬間に素に戻ったキョーコちゃんと。
「ありがとうございます。」
ぺこりといつもの綺麗なお辞儀。
「蓮、おーいっ、大丈夫か?」
キョーコちゃんをみている蓮の顔はまだ役のままで、社が前にいることに気づいてないようだ。
ここへもキョーコちゃんが歩いてきたから、ついてきたという風情。
「敦賀さん?」
「あ、、すみません。」
「いいよ、すごい集中だったからなぁ。3時間は休憩だそうだから、控え室行くか?」
「そうですね。」

「よければ、一緒にどう?」
別の部屋に入っていこうとするキョーコちゃんに声をかける。
「佐野さん、今日は琴南さんのほうにいるから、様子みてくれって言われてるし。」
「そうなんですね、ありがとうございます。、けど、敦賀さん少しお休みなさったほうがいいんじゃありませんか?」
キョーコちゃんの顔が心配そうに蓮を覗き込む。
「いや、大丈夫だけど?・佐野さんがいないなら、一緒の方が安心だし。」
蓮がキョーコちゃんの視線を逸らすようにしたので、また、何か考え込んでいるのだろうと社は思った。
やっぱり、脚本が要るのか?
その態度、あきらかにキョーコちゃんは不信感いだくぞ?
それを俺はフォローすべきなのか?

「じゃ、蓮をそっちで休ませたら、俺キョーコちゃんのところにいようか?」
「いいんですか〜確かに一人は心細いので。」
キョーコちゃんは、なんだかホッとしたように微笑む。
横で蓮がぎくっと固まったのがわかったけど、もう、いいや、と思ってしまった。
佐野さんがいなくて、キョーコちゃんが心細いのは間違いないんだし、ここは異国だからな。
ていうか、そういうことを思いやりそうな癖にそれも発動してないって、やっぱり調子崩してるのか。
「・・・・」
脚本なしでは台詞が一個もでてこないらしい。
「ゆっくりなさってくださいね。」
ぺこりとキョーコちゃんは黙ったままの蓮に、お辞儀をして、入ろうとしていた控え室に戻っていった。

「オーバーペースなら、ちゃんと言ってくれよ。監督にも伝えるし、調整するから。」
部屋に入るなり、社は折りたたみのパイプいすを、横になれるように並べ始める。
「そんなことはないです。ちょっと、ショックなだけで。」
「あ、リテイクの事?」
社はさらりとながす。
「助監督が言ってたけど、監督は基本リテイクだすんだってさ。二人だと2テイクぐらいですんじゃうから、ハイペースらしいよ。」
はぁぁあぁ〜とすごいため息。
「・・・・おまえ、こっちにきて敦賀蓮をやめているだろ?蓮くんはそんなため息はつかないね。」
社も軽くため息。
「あの娘、CM撮りのときから知っているからなんでしょうけど、、」
完全にスルーした内容。
「うん。凄いよな。大友監督が気に入ったのがよくわかるし。撮影現場の雰囲気もさ、世界レベルってこういうことか、って思ったよ。監督が日本を離れたのって、そういうことかなと思うよね。」
蓮がやっと顔をちゃんと見る。
「ま、ちょっと冷静になれよ。凹むような要素はないからな。じゃ、俺はキョーコちゃんみてくるから。」
「えっ、あっ、、。」
社はにたーっっと嗤う。
「心細いなら、呼んできてもいいけどさ。」
「お前がキョーコちゃんに気を使えないなら、やめたいんだよね。あの子のほうがシンドイはずだから。」
蓮の表情が固まって、すぐ赤くなった。
「・・・社さん、お願いします。俺は寝ときます。」
社が驚く。素直にみとめやがった!いい傾向だけど。

「どうぞ〜」
キョーコちゃんは控え室のドアを完全に開けたままだった。
「ドア、開けとくの?」
「佐野さんの教えです。寝てたり、台本に集中したいときは閉めて、鍵もする。誰か話し相手がいてもいいときは、しっかり開けて、ドア近くに座る。その方が、防犯にもなるしって。」
「ああ〜なるほどね。それは大事。」
「ど〜ぞ」
紅茶にクッキー。
女の子だなぁと思う。
「そういえば、こっちでもお料理してるの?」
「してますよ〜佐野さんにお願いしてキッチンのあるところにしてもらいました。」
撮影期間は3ヶ月。みっちり3ヶ月ではなくて、あいだに帰国したりしながらだが、ホテルに泊まるより月貸しの部屋をとってしまったほうが効率的だ。
「あ、そうだった!天宮さんの帰国前にお鍋パーティーするんですけど、いかがですか?」
「鍋かぁ〜いいね、もう冬だもんなぁ。、でもいいのかな、女子会じゃないの?」
「鍋は人数多い方がいいんです。むこうのスタッフも誘っているので、日程と場所決まったらご連絡しますね。」
このへんは相変わらずなんだよなぁ。
すごく楽しそうに話をしているキョーコちゃんに、うっかり見蕩れそうになる。
蓮には申し訳ないが、この憩いは俺にも必要だから。
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