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椅子に座っている彼女。その後ろから彼女の耳元で話をしている、大友監督。
スタッフは遠巻きにそれを見てる。
スタッフが息を呑んでいる様子から、すでにこの後を期待して待っているのがうかがえる。それが解っても胸にチリチリとした痛みが走る。
「蝶が羽ばたくよ。」
隣にいたスタッフのひとりが囁く。
フッと立ち上がった京子、離れる監督。
シーンはログハウスから出た後の「レオン」の仕事を目撃してしまった後。
ホテルの一室で、彼が戻ってくるのを待っていていいのか、逃げ出すべきなのか。
立ったり座ったり、猫を抱きしめてみたり。その後に思い出したように優しい笑顔になり、ドアをみる。
ー早く帰ってきて。ー
そんな声が聞こえるような。
見ているもの全てに、彼女の不安と期待の入り交じった気持ちを抱かせる。

カットの声がかかり、スタッフから拍手がと嘆息が漏れる。
「これで3テイク目だけど、1テイクで充分いい雰囲気だったんだよね、それでも監督がうんと言わなくて、さっきのマジック。監督のアレがあった後は1テイクがダメだった理由がわかるんだけどさ。」
ー大友のミューズ・・ー
監督には「京子」の一歩先が見えてるんだ。
「敦賀くん、急いでこっち。」
後ろから大友監督の声。
「ごめんね。挨拶もそこそこで悪いけど、京子が君の姿に驚いてしまう所が見たいから、準備して籠っててくれるかな?、、あらかじめ伝えとくべきだったね、申し訳ない。」
「いえ、こちらこそ。雰囲気見たくてつい。」
「じゃ、カレンに状況は確認してもらえるかな?頼むね。」

「シーンはホテルに戻ってくる所から。さっきの現場はあのままの雰囲気なはずよ。」

「!!…おかえりなさい。」
不意に開いたドアに警戒と驚き、姿をみて素直に喜んで、なのにふいっと顔をそむける京子。
「俺」は現場を見られた自覚から、居るとは思っていなかった。いたのか?という顔と、いてくれてよかったと思う気持ち。京子が顔を背けたときにだけ漏らす微笑。
「帰ってきてくれてよかった。」
思い直したように笑顔になって「俺」に近寄ろうとし、躊躇する京子を、ぎゅっと抱きしめてしまう。
「…痛いよ。」
ポツリと彼女が言って、緩慢な動きで離れる。
離れると無表情を装って、シャワールームに消える。

カット!
ほっと息を吐くキョーコ。
「やっぱりビックリしちゃいました。・・よろしくお願いします。」
いつもの笑顔と丁寧なおじぎ。
「こちらこそ、よろしくね。」
挨拶を交わしていると、オッケーっという声がして、モニターをチェックしていた監督がこちらに歩いてきた。
「いきなり撮影で申し訳なかったけど、効果はあったね。ありがとう。
みんな、敦賀蓮くんだ。歓迎してくれ!」
拍手が起こり、敦賀は頭を下げる。

「髪切られたんですね。ビックリしました。」
「金髪も役には合わないので、ちょっとね。」
髪色はくすんだ薄茶になっている。耳がしっかり出る長さで、前髪は少し重めに残した。
下げれば野暮ったくなり、あげてなでつければ紳士然となる。
「マジックがかかるとこ、見たよ。凄いね。役が憑いてるのもわかるのに、何を言われているんだろうって」
キョーコが真っ赤になる。
「マジックっていうか、監督は「京子」と会話するんです。」
「会話?」
照れたようにちょっと小首をかしげて笑うキョーコ。
その表情は、ほんとに反則だよ。可愛すぎるし、無防備すぎるから。
「今、京子には何がみえてるのかな?とか、そんな感じで、それに答えていくと、出来上がるんです。」
キョーコの両手が大事な心を抱えるように胸のまえで重ねられる。
ああ、そうだった。彼女は自分を少しづつ築き上げていく。

久しぶり、それもほんの数日ぶりだというのに、数日前の姿ではいてくれない。
撮影について嬉しそうに語るキョーコは、あまりにキレイで眩しい。

・・・抱いて、女になんかさせないでくれよ・・・
あの日大友監督が別れ際になげた一言の意味を、思い知らされる。
キレイなのは、少女が少女である故に、無自覚で残酷な存在だから。

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