わるいまほう-5

あけましておめでとうございます。
本年も捻くれ妄想にお付き合いいただけましたら、幸いですー

展開的に新春に大丈夫げなお話がコレしかないという、、、。



「君はそんなに俺が嫌いか?」
敦賀の言葉に、キョーコが思わず固まった。
会社帰りでもゆっくり美味しいケーキが食べられるその店には、静かな音楽が流れて、程よい甘い香りが漂っている。奥まったコーナー席で、敦賀とキョーコはお互いに斜めの位置に座っていた。そもそも、そんな所でケーキを前にしていたのは、敦賀の要請であって、キョーコの嫌がらせだったわけではない。
ちろりちろり
店内から寄せられる好奇の視線に、敦賀はがっくりと首を落とした。店内に男性は敦賀ただ一人。こんな時間ならケーキよりは居酒屋かレストランで夕食をとるのが普通だ。店内に女性しかいないのは、お喋りに花を咲かせるため、夕食とは別口で此処にいるからだろう。定時退社でこんな店に入ったことが無かった敦賀には、完全なるアウェイ。つい恥ずかしまぎれに口をついた言葉に、キョーコが黙ってしまって、敦賀は一層落ち込んだ。
・・・やっぱり嫌われていたのか。

「あのぅ。」
敦賀とともに退社したキョーコは、どこに行くのかと敦賀にたずねたのだった。
「その、、最上さんのお気に入りの店を教えてもらおうかと、思って。」
「あ、ご進物ですか?」
怪訝そうだったキョーコの顔色がぱぁっと晴れたのに、敦賀はどきりとする。
「それでしたら、ご先方の概略とご予算を教えていただければ、、、。」
そこまでニコニコと言いかけて、キョーコはハタと止まってしまった。おそらく、そういった事なら一緒に来ようなどという事ではなく、用意してくれと依頼される物だと気付いたのだろう。言い淀んだキョーコが少し俯いて、そして提案したのがこの店だったのだ。
「駅近くなんですけど、会社とは反対口なので、あんまり会社の方に知られてないんですよ。」
その言葉に敦賀がキョーコの意図を読み取れずに、首をほんの少し傾けた。
「こっそり甘い物を食べるなら、おすすめかなと思うのですが?」
「いや、別にこっそりとまでは。」
敦賀の応答に、キョーコがまた疑問符を顔に浮かべて敦賀を覗き込む。
「そうなんですか?えと、それでしたらデパ地下の方が種類豊富ですし、明日の3時の用意もできますが?」
敦賀はキョーコをじぃっと見つめた。あくまで仕事だとキョーコは思っているらしい。石橋や貴島が気軽く誘ったのを眼の前にして、敦賀はなにやらモヤモヤする感情を持て余していた。競争心が刺激されたとでもいうのか、なんとはなく悔しかったのだが、二人きりで出かけるということに警戒心も浮かれた所もないのは、男として如何なものかと思う。とはいえ、キョーコは部下であり、棚田が言っていたようにデートというつもりでもない。行き先をたいして考えもせず、キョーコの菓子購入の様子を見てみたかっただけだが、デパートの地下で一緒に買い物というのも今ひとつピンとこない。そして結局、喫茶もある洋菓子店に入ってしまったのだった。

「早めに誤解は解けよ?」
社がフーッと溜息をつきながらそう言った。
「お前、なまじモテてきたから、相手が好意的に解釈してくれるのが当然だったのかもしれないけどさ。」
「好意的に解釈って。」
敦賀は社に反論したくなるが、続ける言葉が出てこない。
「だってさ、嫌われてると思ったらさ、よっぽどのことがない限り、向こうがそれをひっくり返そうとはしないよね。」
「、、、。」
「ていうか、お前って認めた相手に厳しいんだよな。」
社が苦笑する。
「石橋くんや棚田くんはさ、男だし期待に応えようって気概にもなるけどさ、キョーコちゃん、女の子だからね。あぁ、コレ、女の子だから仕事を甘くって言ってんじゃないからな。お前にもこの先、キョーコちゃん以外の女性部下ができるだろう?」
敦賀はなんとなく社が言わんとするところを察した。課長職に就くにあたって、この人事部の先輩が気にかけてくれていたのは、部下を育てられるようになるかどうか、だ。女性部下に下手に恋愛感情を持たれないことも大切だが、ギスギスした関係になっても仕事にならない。
「まぁさ、好きな子と一緒に仕事するってのは、中々大変だよね。」
「は?」
「だってさ、席を自分の眼の前にとかさ、案外露骨でどうしようかと思ったよ。」
ぐっ敦賀は黙る。それは仕事の効率でとかいろいろ言ったところで、社は聞かないだろう。
「でもさ、肝心な本人には監視が必要なダメ社員の烙印を押されたと思われてるし、彼女の特技のお茶出しも禁止して、それもやっぱりダメ評価に思われて、挙句、課長に嫌われてるだもんな。」
「特技のお茶出し?」
「お前知らないの?あの子の出すお茶目当てに、専務やら常務が用もないのに総務に来てたって。」
「お茶目当て。」
「あああ、そっかお前食べ物関連まるっきりダメなんだっけ。」
額に手を当てた社がチラリと敦賀を見た。
「内緒だけどさ、ホントは秘書室からもキョーコちゃんの異動要請が来てたんだよねぇ。」
「お茶って、業務じゃないでしょう?」
お茶くみというのは決していい表現ではないと敦賀は思ってきた。実際の仕事そのものではないのだから。
「社長って案外見てるんだなぁ〜」
敦賀は社のその持ってまわった言い回しに固まった。
「え、まさか社長決裁だったんですか?」
ニタリ
社の口元が緩んだ。
「あの石頭が柔らかくなるかもしれんなぁ、だってさ。」
つまり異動人事は社長の思惑も絡んだということであり、キョーコを自分で引き抜いたつもりの敦賀ではあったが、社長の思うツボだったのかと複雑な気持ちに陥った。あの社長だから何かある。

社の話の後に、貴島が「総務のオヤツ」を話題にしたから、敦賀は一層驚いた。つまり、総務の三時はキョーコを中心にした社内交流の場になっていたということで、、おそらく貴島は上層部がウロウロしていることを知っていたのだろう。他にもそれを知っていた人間がいる。
三課に配属になったキョーコが、ちょくちょく声をかけられていたのは、そういう事だったのだ。きっと、彼女自身は自覚していないし、大した話題が出ていたわけでもないだろう。ただ、お茶飲み話でも面識ができるのは大きい。喫煙室が消えた中で、気軽な社内交流の場は少ないのだ。
、、一体どんなお茶なんだ。
好奇心にかられて始まった三時は、予想を上回った。
菓子に合わせて、コーヒーに紅茶に緑茶。めいめいの好みは確認した上らしいが、きちんと考えられた組み合わせで出てくるのが、敦賀にもわかる。そして、美味しいのだ。課員がみな、どうやって淹れてると聞くのがわかるほどに美味しい。そして、そこから広がる話題。
貴島がオヤツのセンスと言っていたが、おそらくこういった組み合わせも如才なく告げていたのだろう。コーヒーにどうぞとか、緑茶にとか。そうなれば、気の利いたアシスタントがいると先方にはアピールになる。
これが庶務課時代ならば、上層部は庶務課にかかる仕事具合も見ていたのだろう。

「あのぅ。」
黙り込んだ敦賀を、キョーコが上目遣いに覗き込む。はっと思索からかえった敦賀は、その表情にどきりと胸を突かれた。
・・・抱きしめてしまいたい。
自分の頭に浮かんだ言葉にギョッとする。
「今日のお菓子もダメだし、このお店もダメって事ですよね?すみません。」
少しキョーコの目が潤んだようで、敦賀は慌てた。嫌いなのか発言をキョーコはダメ出しと思ったらしい。
「違うっ。その、ちょっと予想外の状況にその、、」
「予想外?」
ぐっと敦賀は詰まった。決してキョーコは悪くないのだ。
「状況に恥ずかしくなっただけ、だから。」
「はい?」
キョーコは今度はキョトンとして敦賀を見る。
「、、、食べたら、軽く飲める場所に移動しよう。」
敦賀はキョーコから顔を背けて、目前のチーズケーキにフォークを入れた。
「は、はい。」
話題をはぐらかされ、キョーコはよくわからないという表情を浮かべながらも、ショートケーキのホイップを口に運んだ。唇に少し残ったその白い泡を舌先がちろっとすくっていく様を、敦賀は横目に見てしまい、かぁっと熱が上がってしまう。口に含んだチーズの濃厚な味わいが、妙に艶かしい。
「お持ち帰りでよろしいですか?」
ショップの方から店員の声が聞こえて、敦賀は危うく口に含んだ紅茶を吹き出してしまいそうになった。
・・・な、何を俺はっ。
ニタリと笑った社の顔を思い出した。
・・・好きな子と、、
かちゃ
小さくカップがソーサーと音をたてる。敦賀はそっとキョーコを見た。ケーキを丁寧にそっと掬う様は、まるでリスか何か小さな動物のようで、あまりに可愛らしかった。美味しそうに食べる姿になにか微笑ましくもなって、じっと見つめてしまう。
「?」
視線に気づいたキョーコが手を止め、頰を染めた。
「すごく幸せそうだ。」
ポロリと口をついた言葉。キョーコが耳朶まで真っ赤にして俯いてしまう。
「、、、その、美味しいものは幸せな気分になるね。」
小さく咳払いをして、敦賀は自分のケーキを口に運ぶ。
「は、はい、ソウデスネ。」
ギクシャクとしたキョーコの声に、敦賀はなにか、誤解が解けたのではないかと擽ったいような気持ちになったのだった。ただ、それと同時に、部下に恋愛感情を持ってしまったという自覚が重くのしかかる。社にはあからさまな好意と云われたが、自覚あってではなかったからこそで、自覚してしまえば、明日出社して目前にキョーコがいるのに、どんな顔で机に座って良いものかもわからない。しかも、キョーコには嫌われていたのだから、今日この時点でやっとプラマイゼロ。
ずしん
あらかた胃に収まったチーズケーキが急に重たくなる。
「課長は、、甘いものお好きなんですか?というか、どういう系統のお菓子がいいとか、コーヒー党とか。」
沈黙に耐えられなくなったように、キョーコが口を開いた。
「、、実はあまりよくわからないんだ。ただ、最上さんが出してくれるものは、全部美味しかったよ。」
「よかったです。」
にこっと笑ったキョーコの笑顔は、本当にそれが嬉しいのだとわかる笑顔で、敦賀の胸がきゅっと鳴る。
「だから、色々教えてもらえると嬉しいよ。」
そっとテーブル上のキョーコの手に敦賀は手を重ねた。
えっ
戸惑って引っ込めようとする手を押さえてしまう。
「この手は色んな美味しいものを作り出せるんだね?」
「ど、どうしてそんないかがわしい言い方をっっ!」
「どこがいかがわしいのか、わからないんだけど?」
そうっと手を離す。
「!!」
キョーコの顔が真っ赤になって、口元がへの字に結ばれる。
・・・暫くはこの関係がいいのかもしれない。
敦賀は内心のため息を笑顔に包みこんだ。


*****
イケてるはずの敦賀課長、内実はヘタ蓮さんだった(涙)
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