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わるいまほう−3

は〜仕事してると、こういう妄想はとめどなく。
そんなわけで、続いてます、「わるいまほう」




「よっ!」
課の入り口のキャビネットのあたりで、調子の良い声がした。
月曜日の朝、営業企画三課は軽い朝礼で始まる。他の課のようなミーティングは火曜朝に予定されている。週のスタートは各々の裁量で動き、そこを踏まえての週ミーティングというスケジュールだ。
だから、フロアは三課にだけ人が揃っているような状況で、朝礼も終わっているから皆黙々と自分の机に書類等を広げて取り組む静かな時間。
その静寂をモノともしない元気な声だった。
キョーコは誰だろうと顔を向けようとして、視界の右端で敦賀が立ち上がったのに気づいた。
課長の知り合い?
会議やら何やらで課長が離席する事は多いから、この時間は狙い目の時間ではある。
キョーコはこんな時、お茶を淹れに給湯室に行きたくなるのだが、敦賀には要らない事と言い渡されている。少し浮きかけた腰を小さな溜息と共に椅子に落とす。
・・・課長の予定には入ってなかったけど。
スケジュールの共有と会社が入れたソフトがあって、この三課ではフルに活用されている。パソコンのディスプレイは9時を示していて、その時間帯の敦賀の予定は空白だった。
ひらひらと片手を振って敦賀に近寄る人物に、キョーコは少し驚く。
営業一課の貴島代理。敦賀と女子人気をわける、いわゆるイケメン社員だ。三十代前半独身。派手な外見に派手な言動、業績が良いから大目に見られている部分も多くて、その分、敦賀より出世も人気も遅れをとった、と、庶務課時代の情報が頭をよぎった。総務部女性陣の批評では、満遍なく人気の敦賀に比べ、好悪の差が大きいのが貴島なのだという。
長身の二人。
敦賀と貴島、あり得て有り得ない図というのだろうか。営業と営業企画だから、二人が知り合いでない方がおかしいのだが、なんとなく出世競争やら何やらの噂で、親しげにする風景が不思議に見えるのだ。
「金曜は悪かったね〜、助かったよ、有難う。」
貴島の発言に、三課のメンバーは各々顔を見合わせた。
・・・ほんとうに仕事だった?
「いや、解決で良かったよ。まさか、それでわざわざ?」
敦賀の声は柔らかいから、貴島が礼を述べにきたことに素直にほっとしているようだと、キョーコは思う。「無断残業。」とケロリと言ってからの敦賀の言動を思い出して、キョーコはそっと俯いた。
「うんまあね。あとさ、歓迎会だったのに悪かったなって、その主役にお詫びをね。」
そう明るく言い放った貴島は手元に小さな紙袋を下げていた。
「お詫びって。」
敦賀が反応するより早く、貴島がキョーコの後ろに近寄る。
「君が最上さん?」
首を傾けてにかっと貴島がキョーコに笑みかけた。
慌ててキョーコは立ち上がる。
「は、はい。最上です。」
「俺、営業一課の貴島。貴島秀人ていうんだけど。」
「よろしくお願いします。」
キョーコはいつもの深々したお辞儀をする。
「うん、よろしくね。それで、キョーコちゃんって呼んでいいかな?」
「は?」
・・・この人いつ私の名前がキョーコだと知ったんだろう?
「俺のことは秀ちゃんって呼んでいいから。」
「はい?」
キョーコは眼を見開く。
ここは会社である。キョーコが知る限り、貴島はキョーコよりも上役であって、ちゃん呼ばわりはいかがなものか。自分がキョーコちゃんと呼ばれるのは別として、一体何が何か混乱する。
「貴島さん、最上さんはそういうのきっちりした人だから。」
吃驚顔のキョーコの視界に、苦笑する敦賀の姿が入る。
「きっちりした人がさ、秀ちゃんって呼んでくれたら、すごくいいと思わない?」
貴島が悪びれずに話続ける。

「敦賀くんはさ、蓮ちゃんとか呼ばれたくないの?」

しーん
課のメンバー全員が、たぶん、手を止めて、敦賀の発言に耳を澄ませていた。
「プライベートならね。」
はぁぁ
一気に緊張がほぐれていく。
「揶揄い甲斐がないなぁ。そう思わない?」
同意を求める貴島の視線に、キョーコはただたじろぐ。
「まぁいいや。キョーコちゃんの歓迎会なのに、敦賀課長を攫っちゃったお詫び。」
すっと、貴島が手にしていた紙袋を差し出した。
有名ショコラティエの袋で、中に上品なラッピングが見えた。
「お詫び、なんて。」
「受け取ってよ、わざわざ買ってきたんだしさ。此処まで来て受け取ってもらえないなんて、ちょっと、、意地悪いよね。」
「は、、はい。ありがとうございます。」
ぺこぺことキョーコは頭を下げる。
「そこ、評判のお店なんだよね?」
「は、はいっ、ドライフルーツとの組合せがことのほか上品で、甘すぎずほのかに苦みがあって、美味しいです。」
「よかった、じゃぁ、赦してね。そうそう、キョーコちゃんオススメのお菓子屋さん情報あったら、メールくれないかなぁ。営業でさ、差し入れするのに参考にしたいから。」
「ええ?私の情報で参考になりますか?」
見上げたキョーコに、貴島がとっておきとでもいう甘い笑顔を見せた。
「総務で情報いれてたんだけど、君が異動になっちゃってから、イマイチでさ。」
「へ?」
キョーコの驚いた声とともに、課のメンバーも驚いたように顔をあげた。
「総務の三時のオヤツ。キョーコちゃんが担当だったんだよね?」
「はい、そうですが?」
「あれがね、いい情報だったわけ。それで差し入れしてたら、先方に大ウケだったらしいんだ。それがさ、こないだ、貴島さんアシスタントが変わった?って聞かれちゃって。」
つまり、差し入れのセンスが変わったから、差し入れを用意する人間が変わったのかと云われたということである。先方としたら、やんわり事務方のやりとりがいままでと変わるのは嫌だという意志表示でもあるのだろうが。
「たかが差し入れ、されど差し入れなんだなぁ。楽しく仕事できるに越した事ないしね。」
貴島から受け取ったショコラティエはキョーコが気に入っていた店だ。
・・そういえば。
総務にいる奏江や千織が、今の三時担当はイマイチだと零していたのを思い出す。
「でも、今そんなにチェックできてないので、お役にはたてないかと。」
「え〜、まさか、キョーコちゃんがいるのに、この課には三時ないの?」
貴島が大げさに肩をすくめる。
「そんなことさせてる余裕ないですよ、貴島さん。」
敦賀が少しムッとしたように会話を遮った。
「そんなことじゃないよ〜創造力の源だよ〜オヤツって。」
「貴島さん、甘い物好きなんですか?」
キョーコは思わず訊ねた。
「うん、好きだよ。っていうか、敦賀くんみたいに、食事に興味がない人じゃないからね、俺。」
ふふんっという様子で貴島が敦賀を見る。
「食事に興味がない。」
キョーコが驚いたように敦賀を見て、そして、あっと思いつく。
・・・課長って、ランチ食べてないかも。
社食で会った事もなければ、机で弁当を広げていた事もない。
「興味がないとは失礼だな。」
「え?だって、どうやってそんなに大きくなったのか、わかんないほどの少食じゃんか。」
「少食。」
キョーコはまた眼を見開く。
そのキョーコの反応に、敦賀が顔をふいと背けた。なにか、酷く子供じみた仕草に、キョーコは思わず固まった。
金曜日も、他のメンバーに比べたら、敦賀の箸がすすんでいなかった。それを、渋々参加だからなのかとか、いろいろ勘ぐったキョーコである。中座の理由も、、食べたくないから?
「まぁ、いいや、でも美味しい店見つけたら教えてね。じゃ!」
貴島は壁の時計を見て、身体を翻した。営業の課長代理が油を売っていていい時間ではない。

「そんなに君は詳しいの?」

貴島が去ったあと、敦賀が困ったようにキョーコに訊ねた。
「詳しいという自覚はないのですが、、食べるのも作るのも好きなので、はぁ。」
にこにことまくしたてていった貴島の影響から抜けきれずにキョーコはぼんやりと答えた。
「そう。それじゃ、、余裕のあるときは、、三時お願いしようか。」
少し首を傾けて、キョーコを見る敦賀の表情は棄てられた仔犬のようで、キョーコは手にしていた袋を思わず抱きしめていた。
「あ、、、じゃ、今日はこれをみなさんと。」
「それは君が貴島さんから貰ったものだから、君が楽しむといいよ。」
「え、でも一人で食べたら、ニキビでまくりですっ!!」
は!
敦賀が笑った。キョーコは思わずほっとする。
「じゃ、お言葉に甘えさせてもらおうか。」

・・・蓮ちゃん、、か。
お菓子の話で誤魔化されたけれど。
プライベートで、そう呼ばれたいといった敦賀の言葉が、キョーコの頭にこだました。



*****
やっと貴島さん登場ですよ〜
女の子の動向のチェックは欠かさない!総務に入り浸っていたのでしょうけど、当時キョーコちゃんには気付いていなかった模様。ライバルの敦賀課長へのチェックも怠らない感じですね〜
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