わるいまほう−2

結局書いちゃいました。
ええと、オリキャラが脇ですが混じります。
前話→わるいまほう



「やっぱり、敦賀課長が気になる?」
石橋の質問に、キョーコは眉を少しだけ顰める。
会社とは違う薄暗い店内、広いテーブルを囲んで6人で座っていたのだが、乾杯を交わしてしばらくすると敦賀は携帯に呼び出されて席をたっていた。
「ええ、仕事何かあったかなと。」
キョーコの異動3ヶ月での歓迎会。明日は土曜で会社は休みの、金曜夜。会社にほど近い創作料理店は、石橋が見つけたのだとニコニコしながら説明してくれた。居酒屋じゃ、歓迎会っぽくないし、うちの課の雰囲気的には洋風がいいかなとか、いろいろ考えたんだよと。
大皿料理ではあるけれど、店内のお洒落な雰囲気そのままに、盛りつけも丁寧な料理は、キョーコ以外の5人が男性ということを考えると、少し物足りないのでは?と思いつつ、自分の歓迎だからと気を使ってもらったのがなにか嬉しかったキョーコである。飲みやすい甘いカクテル類の種類も多いから、今度、奏江達を誘ってもいいな、そんなことをキョーコは考えながら、にこにこと料理を取り分けたり会話を楽しんでいた。

「あはは、最上さんは心配性だなぁ。」
椹主任が、キョーコの心配顔に苦笑しながら、キョーコのグラスにビールを勧める。
「心配性って。」
「金曜夜だよ、仕事の電話ってことはないな・。」
棚田というキョーコより2期上の社員がそう言った。
「あ、そういうもの、なんですね。」
「うん、うちの場合、クレームとか緊急事案の呼び出しはないよ。」
そう口をはさんだのが新開主任で、神経質そうな顔を緩ませてキョーコを覗き込む。それは、仕事に対する自負も感じられて、キョーコは顔をほころばせた。
「クレーム無しって凄いです。」
「まあ、ほら、解決屋って云われるぐらいだしね。それに、最上さん来てから、仕事がさらに丁寧になったって、評判いいんだよ。だから、これからもよろしくね。」
新開は早口でそう言った。敦賀との仕事が一番長いのが、新開なのだという。主任が二人なのだが、椹は課長補佐・主任というちょっと変わった肩書きがついている。この主任二人は敦賀より年長だから、年功序列の会社ではないとはいえ、ちょっと複雑なのではないかとキョーコは思う。
「嬉しいです、ありがとうございます。」
思惑は胸にしまい、キョーコはぺこりと深く頭をさげた。
ふふふ
「最上さんのそういうところがいいよね。」
新開と椹が顔を見合わせて頷いている。キョーコは、え?と思うのだが、棚田や石橋までもが頷いているから、そこでまた、嬉しくなる。何にせよ、課のメンバーがキョーコの存在を認めてくれているのがわかって、頑張って仕事してきて良かったという気になったのだ。
「でも、ウチに配属になってどう?会社帰りにショッピングとかできなくなったんじゃない?」
「ええ、まぁそうなんですけど、できる事が増えて今はそれが楽しいんです。」
「そっかー、それは良かったよ。前に居た子とか、愚痴だらけだったもんな。」
棚田がそう言ってグラスをあおる。
残業が多い課ではあるけれど、メリハリはついているから、帰りたい日には定時で上がりようがある。月・週で各々の希望を取っているせいもあって、誰かが残っていて、誰かが帰るのも普通の雰囲気なのだ。特に椹と新開はどちらかが交代と決めているのか、二人が揃って不在ということは、キョーコが着任してからの3ヶ月間はない。
「このままいくと、春には椹さん昇進じゃないですか?」
新開がにこにこと椹にビールを注ぐ。
「まぁね、そうだといいけど、ここ離れるのは残念だよね。」
「?」
キョーコはきょとんとして二人を見る。
「ああ、えっとね、課のメンバーが落ち着くまで、って条件で椹さん補佐だったわけ。」
「棚田くんと最上さんで、まわるようになったからね。」
キョーコと棚田は顔を見合わせていた。
最年少課長をめぐる人事。
「出てっちゃうなら、隣の二課長とか、営業三部で、梃入れしてやって下さいよ。」
石橋が口を尖らせる。キョーコも苦笑する。厄介な仕事がそこから押しつけられることが多いのをキョーコも知っているからだ。
・・・それにしても、こういう話題なんだ。
なにか背筋が通る気がキョーコにはする。総務部の飲み会は女性が多いのもあって、どこの誰が結婚しただのつきあい出したの、どこそこの業者がイケメンだとか、そんな話題だった。それが良い悪いとはキョーコは思わないけれど、この課の人達の興味の埒外なのだろうと思う。
ちょっとほっとする。

「それにしても、課長の電話長いですね?」
棚田が切り出して、店内を見渡した新開が肩をすくめた。
「あ〜、ひょっとして、帰ったかな。」
「え・黙ってですか?」
そう言ったのは棚田。
「あの人、ほとんど一緒に飲まないから。今日乗ったのも相当珍しいんだ。」
新開がいう。
「珍しい。」
「うん、ほら、棚田君の歓迎会もさ、途中フェードアウトだろ?覚えてない?」
「そうでしたっけ?」
棚田が苦笑する。
「気を使い過ぎだって思うんだけどなぁ。」
二次会に参加しないとかでいいのにね。と石橋が苦笑に答える。
「それか、あれじゃないですか、彼女と約束とか。だって、金曜ですよ。」
にやりと年相応な顔をした棚田が云う。
ドキ
キョーコはその言葉に身じろぐ。
「まぁね。上司無しのほうが、話が弾むからなぁ。」
実際、敦賀は戻ってこなかった。しかも、会計も済みだとカウンターで告げられる。そのことで、だれもが、敦賀が気を使って中座したのだと納得した。

「君を嫌ったつもりはないよ。」

まだ終電には余裕のある時間、皆と別れて駅に向かったキョーコは、敦賀の言葉を思い出していた。あれは、誰に対してもそうなんだということだったのだ。特別に嫌ったとかそういうことではない、と。
小さく吐いた息が白い。
・・・よかったじゃない。課の人達にも、当の課長にも変なふうに思われてなくて。
・・・彼女と約束、、か。
金曜日の夜。確かに、周囲には仲睦まじく歩くカップルの姿が多いような気がする。
きらきらと飾り立てた通りのイルミネーションが、クリスマスが近いことを嫌でも感じさせる。
・・・この季節は、きらい。
こうやって一人で歩いているのを妙に寂しく感じてしまうから。
ぎゅっと肩に下げたバックを脇に強く挟んで、キョーコはその違和感に気付いた。
「やだ!」
会議に持参した製品をそのまま持ってきてしまっていた。
・・この時間なら、まだ戻れるかな。
時計をちらりと眺めて、キョーコは走りだした。

「え?」
暗くなった社屋。警備員の詰め所のほうへまわって、キョーコは忘れ物を取りにきたと告げて、入館したのだったが。
営業企画のフロアに電気がぼんやりと灯っている。
見回りの人なら、一点で灯りが止まることはないだろう。
・・まさかっ。
キョーコはバッグの中の携帯を探り出す。
開かれたドア。
そろり
覗き込む。
灯りがついているのは、、キョーコの机の近く。
・・ど、どうしよう?!泥棒?!
きょろきょろと入口あたりを見渡して、傘立てにたっていたビニールガサに手をのばした。
・・でも、お金とかないのに?なんで?
あ!
ふと、キョーコは入口に室内灯のスイッチがあることを思い出した。
ぱち
「わっ。」
急に明るくなった視界に、声が上がった。
れ?
その声は。
「か、課長!」
キョーコは悲鳴に近い声をあげた。
キョーコの横の机、つまり課長席に、敦賀がいたのだ。灯りはディスプレイから漏れていたものだったらしい。
そして、キョーコは力が抜けて、へなへなとしゃがみこむ。
「最上さん?」
「な、なんで暗闇で。」
「無断残業だから。」
入口でへたりこむキョーコに敦賀が歩み寄ってくる。
「最上さんこそ、どうした?」
「・・・・。」
仕事じゃない、皆は口を揃えていたが、、課長は仕事をしていた。
床にへたりこんだまま、キョーコはその長身を見上げた。
・・・デートじゃないんだ。
ふっとよぎった考えに頭を振る。
「どうして。」
歓迎会を中座して仕事なんてどうしてですか?キョーコはそう聞きたかったが、口がうまくまわらなかった。
「来週からの案件が気になって。」
敦賀の返事は答にはなっているが、何か釈然としない。
「そうなんですか・・。」
「楽しく飲めた?」
にっこりと手を差し出す敦賀に、キョーコはまた絶句する。
「どうして、黙っていなくなるんですか?」
「仕事に戻るとはいえないからね。」
「戻らなきゃいけないような仕事ですか?」
ぽろり
そう言ってしまって、キョーコはすみません、と頭を下げた。キョーコのような平社員に課長の仕事はわからない。部下が居ないときにやる事もあるのだろうと思い直す。
「いや、、それより、君こそ、何?」
「・・・忘れ物です。」
差し出された手を取らずに、キョーコは立ち上がって、膝とスカートの後ろを軽くはたいた。
「そう。」
敦賀が差し出した手を軽く握って、キョーコに背をむける。綺麗なターンだなと思いながら、机に戻る敦賀の後ろ姿を眺め、キョーコはその後ろについていくようにして、自分の机に鞄をおいた。
ちらり
椅子にはかけず、立ったままキョーコの様子を伺う敦賀の視線を見ないようにして、鞄のなかをキョーコは探る。未発表製品の持ち出し、と見咎められたくはなかったが、隠しても始まらない。

「それ、君がもってたんだ。」

ぎくり
キョーコはその声に震える。
「すみません。」

「・・・困ったね。」

「え?」
キョーコはいつのまにか隣に立った敦賀をじっと見上げる。
「俺の管理ミスってことかな。」
「すみません、気付かなかったんです。」
「いや、君に持たせてたのは俺だし。」
製品を握ったまままのキョーコの手に敦賀の大きな手が重なった。キョーコはその手に製品を渡そうとゆるめたが、製品ごと机に押しつけられた。
「どうしようか。」
「責任は、とります。」
「どうやって?」
「どうやって、、て、その、減棒とか免職とか、でしょうか。」
「それは、困るよね。俺が部下の管理ができてないって事になる。」
「で、でも。」
「・・・そうだね、君は持ち出してないし、、ここには来なかった、いや、忘れ物を取りにきたんだよね?」
「・・・はい、忘れ物を取りにきた、だけです。」
キョーコは項垂れる。
せっかく課の一員として仕事ができていると思えたのに。
「じゃあ、そういうことに、しよう。」
する
敦賀の大きな手がキョーコの手に絡んだ。
「え。」
「忘れ物を取りにきた君に、俺は付き合って来たんだよね?」
にこり
その微笑みは、キョーコの思う「似非紳士」の笑顔。
すっと細められた瞳。

「約束だよ。」
耳許に囁かれた言葉に、ぞくっとキョーコは身を竦めた。
するり
製品を手に敦賀が身を翻す。
キョーコは机におかれた自分の手を見つめて、瞼を伏せた。

「お疲れさまです、良い週末を。」
警備員に見送られて、キョーコは失礼しますと頭を下げ、前を歩く敦賀に従った。

悪い、わるいまほう。

齧ったのは毒入りの林檎。
急に甘いアルコールがまわってしまったようだと、キョーコは首を軽く振る。
通りのイルミネーションがまるで行き先を照らす道しるべのように見えるなんて、酔ったのでなければ、なんだというのだろうかと。





*****
黒い敦賀課長・・
何やってたんでしょうね〜
貴島さん緒方さんは他の課にいらっしゃるんですよ。
製造関連の会社を想定してるんですけどね、製品、、皆様のお好きなものを・・。




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