Shinkai-gyo14

解説と目次


墜ちる
沈む
それは似ているようで少し異なる

墜ちる
それは重力に逆らわずに投げ出せば済む
沈む
深海に沈むには圧に耐える身体が要る

天から海底へ
墜ちて、沈む

剥がれたもの
身につけたもの

【Shi・N・Kai・Gyo】


「蓮ちゃん」
ミス.ウッズが撮影スタジオで、蓮を睨みつける。
「キョーコちゃん、だったのね?」
隣のメイクルームから、わざわざ蓮を追ってきた彼女の意図は、雑談めかして他に聞かせない為だと蓮は判断する。メイクルームは人数が限られる狭い空間だから、密談にはむいているようで、、実は向かない。鍵を閉めれば不自然で、二人っきりとは限らないからだ。
・・・社さんがいるしな。
キョーコが「闇の花嫁」と社に知られたくなかった。

蓮もネックレスを贈った時点でミス.ウッズの追求は覚悟はしていた。キョーコは贈られた物を身につけない、そんな子ではない。そして、身につけてもらわねば、贈った意味がない。ほっこりと嬉しそうに微笑んだ顔を蓮は思い返す。そして、あのショップのことを蓮に教えたのは、ミス.ウッズだった。デザインをみれば、石をみれば、当然、意味がわかる。
朝、キョーコには珍しくカッチリとした襟のシャツにニットをあわせていた。「どうしたの?」と言おうとした口を蓮は閉ざした。散々自分がつけた刻印を隠すものだと気付いたからだ。だから、、ネックレスもそう目立たないのではと思ってもいた。


「運命ってあるんだなぁ」
社長の感慨めいたその声に、テンは目を見張った。ミス.ウッズと蓮は堅苦しく呼ぶのだが、自分自身はテンと呼ばれたい。特に社長の前では。
「連絡先の変更。」
キョーコがそれを上司の椹に申し入れて、その内容が社長に報告された時の事だ。
椹も住所を見て、すぐにそれが、蓮と奏江兄妹の家だとわかったらしい。しかも、キョーコの動向は社長に報告することになっていたから、報告は迅速だった。
「なぁに、ダーリン、ニヤニヤして。」
テンは社長をダーリンと呼んではばからない。社長もそれを敢えて訂正する気がないらしいから、それにテンは満足を覚える。
「俺好みの展開になってきたなぁとね。」
「蓮ちゃんとキョーコちゃんがくっつけばいい、とか?」
「さぁなぁー」
ソファーの背もたれに深く身を沈めて社長が笑っている。
「ダーリン、また、秘密なの?」
テンは口をへの字に歪めた。

そもそも、蓮についてテンは詳しく知らない。
「遠縁でな、能力も高いし、この見てくれだからな、モデルでもさせようかと。」
能力が高い、、、
それはアチラの仕事だとテンは直ぐに理解した。
この芸能事務所の裏側の貌。
アチラ側からの闖入者どもを処分もしくは強制送還する「ハンター」に情報を与え、表の仕事と生活を援護する。
事務所に関わる半数がハンターの顔を持つのだが、お互いにコンビを組んでいなければ、誰が普通の人かハンターなのかわからない。把握しているのは、社長と社長秘書、それにテンだけだ。
芸能事務所の都合の良いところは、多々ある。来歴不詳でも仕事ぶりタレントぶりで評価されるという点。スケジュールが不規則でも、そういう業界だという認識がある点。
そして、、、アチラ側の闖入者が芸能界などの「水商売」を好むということ。眩いスポットライトの裏側には深く暗い闇が、ある。その闇にヤツラは潜む。だから、ハンター能力の高いモデルというのは、うってつけだ。
けれど、、、
「遠縁」
そこに含まれる意味は、来歴を聞くなということ。だから、テンは蓮の詳細を知らない。

テンはキョーコも、、実はよくわからない。
就活で面接に来た時に、マリアが懐いたのだという。社長の唯一の孫であるマリアは、事務所に時折遊びにきては、気に入らない何かに対して悪戯をしていたのだが、その悪戯をキョーコが見咎めた、らしい。そんないきさつにも関わらず、あの感受性の塊が懐いた事実が、社長に何かを抱かせたらしかった。
キョーコは強烈な光のオーラと闇のオーラを持ち合わせているのに、普段にはチラリとも霞めることがない。はじめテンは普通の社員として採用されたのだと思った程だ。
「アチラ側っていうのとも、ハンターとも違うんだよなぁ。」
社長がのんびりとそうテンに告げた。


そんなことを思い起こしながら、テンは蓮を見上げていた。
キョーコが「闇の花嫁」、それは冗談ならざる事項だ。
社長がキョーコを気にかけていると、蓮にも告げたはずだと、テンは憤る。
「まだ、触れていないでしょうね?」
蓮とキョーコの同居に際して、社長は言った「勝手に触れるなよ。」と。
「どうして、ですか?」
蓮の漆黒の瞳が射るようにテンを見据えた。

「あいつ、時々人を殺しそうな眼をするんですよ。」
蓮とコンビを組んだ社の心配そうな顔がテンには浮かんだ。
「あぁ、それは見逃してやってくれや。」
社長がそう社に答えた。
「見逃すって、、心配なだけで。」
社がごにょごにょと口を濁す。モデル業のマネージャーとハンター業のパートナー。優秀な人間をと社長が選んで、蓮につけた人材だ。
「人は殺せるような奴じゃないから、大丈夫だ。」
「はぁ。」
諦めたように、わかりました、と答えた社の気持ちが、テンには今、わかる気がした。

ぞっとする冷ややかなものが、蓮の瞳の奥底にある。

「俺が、彼女を此方に繋いではいけないんですか?」
その声すらも冷たくテンに響く。
まるで、それでは、花嫁とシルシをつけたアチラ側のものと大差ないのではないか・・・
ごくり
息をのんでから、テンは口をひらいた。
「・・そんなことは言ってないわ。どうして、私にいわなかったのかって、聞いているのよ。」
「彼女に自覚はないんです。」
蓮の声が弱くなる。
「蓮ちゃん、、いい加減にして頂戴!彼女を大切に思ってるのは貴方だけじゃないのよ?!」
能力があるハンターはパートナーを組みたがらない。一人で解決できると思っているからだ。ただ、事務所がわざわざパートナーを組ませるのには理由がある。一人より二人のほうが、処理能力が上がる、それは実績からも間違いがない。
・・・だから、社くんと組ませたというのに。
テンは歯噛みする。ちゃんとコンビで仕事をするようになったと、安心していた社長に少し苛立ちすら覚えて。
「社長にぐらい、相談しなさい。・・・キョーコちゃんを渡したくないなら。」
そして、蓮の顔を覗き込む。
「・・・真実をキョーコちゃんに告げる必要は、あるのよ?」
テンは危惧した。蓮がキョーコに固執する理由が「闇の花嫁」だけでないにしろ、だからこそ、執着を強めていないだろうか、と。その事にキョーコが気付いた時、傷つくのは、、二人ともだ。
蓮が頭を深く下げた。


蓮はバシャバシャと焚かれるストロボの光に、眩い世界を思った。
キョーコと一緒なら、辿りつける筈だと。
なのに、不安が奥底で燻っている。
その不安を、テンに言い当てられた気がしていた。
昨晩、キョーコと繋がることを蓮は目的としなかった。欲求を押しとどめたのは、キョーコの身体を思ってだったが、拭いきれない不安があったことを否定できない。
「身体を少しづつ知ってくことが大事だからね。」
そう、キョーコに言っておきながら。

「俺は大丈夫だから。」
湧き上がる黒い不安を懸命に抑えていた。




*****
説明の回・・。
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