ASH-9

ASH・・・灰・灰色
1/2/3/4/5/6/


「私も、、敦賀さんの笑顔、毎日見たいです。」
真っ赤になったまま、潤んだ目で見上げるキョーコに、蓮は固まる。

・・・・敦賀さん。

嬉しい内容なのに、冷や水を浴びたように思う、その名前。
他人行儀に思える、呼びかけ。

・・・だからといって。

今、すべてを彼女に話していいのか。

「名前で、、呼んで欲しいんだ。」

ぴくっ
キョーコが固まって、蓮を凝視する。

「蓮じゃなくて、、」
蓮はキョーコを見つめる。
緊張した面持ちの彼女に、これだけは、今伝えよう。
少し乾いた口内を湿して、開く。

「久遠、と、呼んでほしい。」

キョーコの手が口にあてられて、目が見開いている。
そのうちに、小さくその手が震え出した。

「・・いろいろあって、まだ、説明できないんだけど、、君には本当の名前でよんで、欲しいんだ。」

「ほんとうの、名前。」

「そうなんだ。社長しか、知らない名前。」

キョーコの目が、少し泳いでいるのを、蓮は見つめるしかできない。
きっと、「久遠」は、、あの人の息子の名前だと、混乱しているだろう。
そこまでを、説明するのか、どうか。

「久遠さん、じゃ、だめ、ですか?」

その言葉に、笑いがこみ上げてくる。
君はどうして、そうやって、予想のしない方向から答えを繰り出してくるんだろう。
呼び捨てでないけれど、何か、それが、とても良い響きに聞こえる。

「わ、笑うなんてっ。」

「ごめん、ごめん。嬉しっくってっ。」

ぐぅっとキョーコが真っ赤な顔のまま、口をつぐむ。
「ずるい。」
つぐんだ筈の口から、小さくこぼれた呟き。

「キョーコ、って呼ばせてくれるよね?」

「は、はぅっいっ。」
ビョン
座ったままの姿勢でキョーコの身体が跳ねた。

「キョーコ、ごちそうさま。美味しかった。」

「お、おそまつさまでした。、、、久遠さん。」

そして、キョーコがワタワタと立ち上がって、食器を片付け始める。
蓮はそれを手伝いながら、ただ、キョーコを見つめ続けた。
こうやって側にいることで沸き上がる、柔らかくて暖かいもの。

一緒にいよう。

ずっと。

どうやっても溢れてしまう微笑み。


「あっ!」
キョーコの声に我に返ったのは。
テーブルに置かれていた台本を見たときだった。

「役に、、もどろうか・。」
それを口実にキョーコを誘ったのだから。
「はい。よろしくお願いします。」
「隠している、、恋心だよね。」
そう口にして、蓮は気付いた。
キョーコが、自分を好きだとは思えずにいたのは、度重なる経験からだけ、だったのかと。
蓮に気持ちを隠していたキョーコの態度は徹底していた。

・・・でも、どこかでサインがでていた、はず。

サインを受け取れなかったのは、経験値の低さで。
ただ、この役の二人は、もっとわかりやすいサインを出しながら、認められない。

「気付かれてはいけない、恋心です。」
キョーコが台本を手にそう言った。

「誰にも、気付かれてはいけないんです。」
きゅうっと引き結ばれた唇。
「気付かれたら、引き離されてしまうから。」

ズキン

役の事なのに、、なにか、現実が混ざっているような痛み。

「引き離される・・のかな。」
蓮は考える。
一緒にいるために、できる事は、あるのではないだろうか?

「母親に、、逆らって、生きていけるなら。」
キョーコがふぁさりと台本をまたテーブルに戻した。

「あなたが、あなたのしたいようにするといい。」
蓮はそう答え、
「私は、あなたの幸せが、望みだから。」
言い募る。

「それでも、他人と紡ぐ幸せを祝福などできないから、私が、あなたを。」
視線を落としたままのキョーコに蓮は台詞をぶつける。
「幸せにするのだから。」

ふっと寂しそうにキョーコが笑った。

「私があなたを不幸にしてしまうのよ。」

ズキン

役ではない、ほんとうの心が痛んだ。




*****
アップダウン・・。









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